主な研究

不安とうつへの認知行動療法の統一プロトコル
2022-11-21 研究開発部

不安とうつへの認知行動療法の統一プロトコル

どんな治療法なのでしょうか

認知行動療法といっても、様々なプロトコル(系統だった治療手順)があります。うつと不安に関係する精神疾患に対しては、それぞれの疾患に対応する個別の認知行動療法が開発されています。そのプロトコルの数は数百とも言われます。しかし、それぞれ「別の」認知行動療法であっても、どれも認知行動モデルに則って作られているので、実際に治療で取り組む内容がとても似ていたり、同じだったりします。そこで、各障害に対するプロトコルに共通する治療エッセンスを抽出し、それを効果的に一つにまとめて、より幅広い障害に対して対応できるように作られた治療プログラムが、統一プロトコルです。

誰が対象なのでしょうか

どのような障害が統一プロトコルの対象となるのでしょうか。それは、感情にまつわる困難が顕著な障害、すなわち感情障害(Emotional Disorders)です。学術的な研究でよく用いられる診断基準(DSM-5)で言えば、UPの対象として以下の障害や状態が含まれます。

抑うつ障害群:

 うつ病/大うつ病性障害

 持続性抑うつ障害(気分変調症) 

不安症:

 限局性恐怖症

 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)

 パニック症/パニック障害 

 広場恐怖症

 全般不安症/全般性不安障害

強迫症/強迫性障害

心的外傷後ストレス障害

上記障害の合併症

上記障害の閾値下の診断

統一プロトコルの長所は、上記の幅広い障害に対応できる点です。さらに重要な長所として2点あります。ひとつは、上記の障害を2つ以上併存、合併させている方に対しても効果があるように作られている点です。もうひとつは、重症度の観点からはっきりと診断に該当しないものの、部分的にその診断リスクがあるような場合(閾値下の診断)であっても、効果が期待できるという点です。なお、近年では、上記以外にも双極性障害、境界性パーソナリティ障害への適用も検討されております。

どうして有効なのでしょうか

それでは、どうしてUPは幅広い対象に適用できるのでしょうか。それは、こうした様々な障害の背景には、共通の原因が想定できることが研究でわかってきたからです。また、前述のどの障害においても強く激しく圧倒的な感情に苦しめられることが苦痛の中心にあり、そうした“感情への接し方”の困難が様々な障害につながっていることが徐々にわかってきています。そこで、統一プロトコルでは感情への接し方のスキルを学ぶことで、様々な障害への治療が可能になると考えているのです。

何をするのでしょうか

治療の枠組み
一回50分程度のセッションを毎週実施し、合計12~16回実施します。治療終盤にかけては、ペースを毎週から隔週にして様子を見ることもあります。専門の治療者と一対一の個人療法としても、4-10名程度での集団療法としても実施できます。毎回の話し合いで学んだことを、次の週までに、日常の生活の中で練習して身につけていくことがとても重要になります。
導入:やる気を維持する・目標設定
治療は、“やる気”について理解するところから始まります。やる気、あるいは動機づけは、高いままで維持されることはなく、必ず、上下するものです。そこで、やる気が下がった時に、どうやってやる気を取り戻せるかをあらかじめ考えておきます。そのために、今のままでいることと、変わることのメリットとデメリットを考えておくこと、治療の目標を定めて、それを達成するための具体的なステップを考えておくことが大事になります。
感情の3要素

次に、感情について学びます。ここでは、感情が[認知]・[行動]・[身体感覚]の3要素からできていることを理解します。その3要素から自分の感情をしっかり見つめる練習をします。また、感情に気づくために、マインドフルネス(現在の瞬間に注意を向けて、断定しないでありのままに受け止めること)の練習をします。

認知:認知再評価
次に、[認知]に取り組みます。ここでは、柔軟なものの見方や捉え方ができるようになるための練習をします。自分を苦しめるような考え方のくせがないかをふりかえり、物事に対していろいろな見方をもてるように練習します。
行動:回避と感情駆動行動
[行動]に取り組みます。ここでは、嫌な気持ちになるのを恐れるばかりについつい状況や活動を避けてしまうこと(回避)や、感情につられて衝動的にとってしまう行動(感情駆動行動)をふりかえります。こうした行動が自分をさらに苦しめていないか、別の行動ができないかを考え、練習します。
身体感覚:身体の感覚を味わう(曝露)
感情障害に苦しむ人は、身体感覚を嫌うことがあります。心臓がどきどきしたり、頭がふらつくといった感覚です。身体感覚によっていやな感情がさらに悪化するように感じることがあります。こうした関わりを理解して、身体の感覚を避けないで受け入れられることができると、いやな感情への悪循環を断ち切ることができます。ここでは、身体感覚への忍耐力を養う練習をします。
総仕上げ:感情をじっくり味わう(感情曝露)

ここがUPの治療でもっとも重要な部分です。これまで学んだ、[認知]、[行動]、[身体感覚]のスキルを総動員して、感情をじっくり味わう練習をします。ここでは、自分をもっとも苦しめている感情に立ち向かって、実際にその感情をじっくりと感じる練習をします。そうすることで、感情に対する忍耐力がつき、感情に馴れてきて、そうした気持ちをしっかりと自分なりに理解し処理できるようになります。

終結:達成のふりかえりと再発予防
治療で学んだこと、成し遂げたことをふりかえります。そして、治療で得たスキルを今後の生活でどう応用していくか、大変なときにどう対処できるのか、今後の人生の目標にはどんなことが考えられるのか、そうしたことを考えて治療を終えます。
デビッド・バーロウ博士について
バーロウ博士は感情障害、認知行動療法、臨床心理学研究方法論に関する世界的権威です。これまでに500編以上の論文、60冊以上の書籍や臨床マニュアルを発表されています。博士が2000年に米国心理学会(APA)臨床心理学部会の会長を務めた際には、科学的証拠の認められる心理療法を同定する作業部会を立ち上げ、その議長として臨床心理学に厳格な科学性を導入しました。APA臨床心理学会のScience Dissemination AwardやDistinguished Scientific Contribution Awardなど、その功績により数々の賞を受賞されています。また、Behavior TherapyやJournal of Applied Behavior Analysis、Clinical Psychology: Science and Practice、オックスフォード臨床心理学ハンドブック、Treatments that Workシリーズの編集を務めてこられました。他にも、米国精神医学会のDSM-IV作業部会のメンバーなど、精神医学や臨床心理学における様々な重要な役割を果たしています。

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